良くない勉強法について

これまで、科学的に根拠のある効果的な勉強法をいくつかご紹介してきました。とはいえ、なかなか効果的な勉強法を実践するのは難しいものです。人間には「現状維持バイアス」という心理が働き、今の状態や行動を肯定的にとらえて変化を避ける性質があるからです。これは先述したように、脳が「変化を嫌う」性質を持っているためです。

そこで今回は、良くない勉強法を科学的に説明します。もしこれらの勉強法を実践している方は、意識的に改善しないと努力の無駄になりかねません。もちろん、やっていることがすべて無駄になるわけではないですが、効果が薄い勉強を続けるような時間は受験生には無いので修正した方が良いでしょう。ちなみに、非常に長いのでお時間があるときにお読みください。

①赤シートを使って勉強する

赤シートで隠して勉強することは非常にポピュラーです。一見効率的ですが、使い方によっては無意味に近いレベルまで学習効果を減少させます。良くない使い方とは、例えば教科書の一部に緑マーカーで線を引いて隠したり、参考書の重要語句がオレンジのペンで書かれていて隠しながら読むなどです。赤シートで隠すことで単調な作業になってしまい、単純に「分かった」か「分からなかった」かの確認作業になりがちです。真剣に問題として取り組むのは良いですが、ただただ隠して推測し、正誤確認をしても脳が活発に活動しないため記憶に残りにくいです。

記憶は海馬という門番のようなところを超えたものだけが大脳皮質というところで長期記憶として保存されると言われています。その際、海馬の近くにある偏桃体という部位が活発に動くと、「LTP(Long Term Potentiation)」と言われる現象が起きやすく、長期記憶に残りやすいと考えられており、その偏桃体は「感情」によって活動が活発になることが分かっています。例えば、人前ですごく恥ずかしい体験をしたことやテーマパークでめちゃくちゃ楽しかった経験は強く記憶に残ります。それも「感情」が大きく動いた結果、偏桃体が活発に働き、LTPが起きているということです。狩猟時代において、大きな失敗は命取りになり、大きな成功は生活を向上させました。その頃の名残が今も脳に刻まれているのです。ちなみに、テーマパークで絶叫系やホラーのアトラクションが多いのも、感情を大きく動かすことで良い思い出を強く残すという効果があり、非常に理にかなった戦略だといえます。私は絶叫もホラーも苦手なので、テーマパークの思い出は薄いです(笑)

以上のことから、脳が飽きやすくなってしまう赤シートでの勉強はオススメいたしません。赤シートで効果を高めたいのであれば、声に出してわざとらしくテンションを高めたりすると良いと思います。非効率的として最近は否定されがちな「書く」という作業ですが、身体を動かして五感を刺激するので実は黙読するよりも効率が良いです。ベストは書きながら声に出し、テンションを上げることですが、場所を選んでやるようにしましょう(笑)

②音楽を聴きながら勉強をする

これも非常に多くの方がやっているのではないでしょうか。人間は日常のほとんどを五感のうちの視覚に頼って生きています。そのため、聴覚は意識されにくいのですが、記憶と五感の研究の結果、最も記憶に残りやすいのは嗅覚、次いで聴覚ということが分かっています。つまり、音楽を聴きながら勉強すると、目で見ている参考書などよりも耳から入ってくる音楽の方が優先的に記憶に残るのです。クラシックを流すと集中しやすいなどの話も聞きますが、個人的に展開がある音楽は脳にとって刺激的なので、ロックだろうがクラシックだろうがあまり良くないと思います。それに対し、自然音などの展開の無い音はむしろリラックス効果をもたらすのでオススメです。むしろ、一般的に最適と思われがちな無音は逆効果です。というのも、世の中に無音状態という環境は基本的になく、非日常的な空間になるので緊張状態になるからです。「リビングやカフェで勉強すると良い」と言われるのは、適度な自然音のなかに身を置くことで集中しやすいというのも要因のひとつ(その他にも要因はいくつか挙げられています)です。

個人的にオススメは「耳栓」です。耳栓をすると、無音のような無音でないような絶妙な状態になります。また、耳栓を付けるという行為自体が勉強に対してのスイッチになるので、耳栓を付けたら集中するという切り替えに役立ちます。私は受験生時代は耳栓を常につけて、集中に意識を向けながら勉強していましたが、短期間で成績を上げた集中力の要因のひとつは間違いなく耳栓にあったと断言します。

・友人と休憩を合わせる

休憩は勉強と関係ないように思われるかもしれませんが、実はめちゃくちゃ大切なんです!

人は勉強しているときに集中して学習します。そこでポイントなのが、「集中しているときに脳内に保存されているわけではない」ということです。厳密にいうと、脳内に入っているがきちんと整理されていなくてゴチャゴチャな状態という感じです。

実は、脳は休憩しているときに脳内で情報を整理してくれています。脳科学的には「DMN(デフォルト・モード・ネットワーク)」と言われるのですが、ぼーっとしているときやリラックスしているときは脳はものすごく働いているのです。DMNを実感しやすい例は「夢」です。夢を見るときって訳のわからないことが時系列を無視して起きたりしますよね。それは脳が新しく学んだ情報と、すでに記憶している情報を結び付けて整理しようとしているからなのです。そのおかげで色んなことを覚えていられるのです。

私たちはこのDMNによって様々なことを整理し、記憶している。逆に考えると、このDMNを大切にしないと勉強しても記憶できないということになります。だから休憩で友人と話をしてしまうとDMNが効果的に働かず、せっかく勉強したことを忘れてしまうのです。小まめに休憩を挟んでぼーっとする。もちろん、休憩だからといってスマホを触ってしまうとDMNは起きないのでNGです。

本日のポイント

・赤シートはやったつもりになるだけで時間を無駄にしやすい。テンションを上げて音読すると良い。

・音楽を聴きながらの勉強はNG。自然音や耳栓にしましょう。

・休憩でぼーっとすることは大切!友人との会話やスマホは勉強が終わってからにしましょう。